『君の名は。』の世界的大ヒットに続き、現在公開中の『天気の子』の興行収入も公開から11日間で40億円突し『君の名は。』を超えるペースで大ヒットとなり、140の国と地域に配給が決定しています。
そのアニメーション監督である新海誠さん。
なぜ、新海監督の作品は世界で評価されるのでしょうか?
アニメーター監督の原点から、他の映画とは全く違うその作品の作り方の特徴を彼の代表作『言の葉の庭』『君の名は。』『天気の子』から読み解いていきます。
新海誠の作品の特徴。その作品の原点とは?アニメーターへの道のり
新海誠監督の作品の特徴は、その生い立ちにも深くかかわっているようです。
長野県出身で、子供のころから緑豊かな自然の中で過ごし、高校卒業後は、中央大学文学部に進学されました。
大学卒業後は、ゲーム業界に就職しました。
新海監督はコンピュータグラフィックス(CG)を使いゲームのオープニング映像の制作をされていました。
アニメータである新海監督の原点はここにあります。
ゲームのオープニング映像の制作を通して、次第に自分の作品を作りたくなってきた監督は、仕事終わりに少しずつ短編作品の制作を開始します。
その作品が『彼女と彼女の猫』(1999年)
すべてパソコンで制作するデジタル制作は、当時のアニメーションでは珍しものでした。
デジタルでしかできないその斬新な表現が、当時のアニメファンのハートをつかみ、第12回CGアニメコンテストでグランプリを受賞することとなります。
この受賞がのちのアニメーターとしての成功へと繋がっていきます。
新海誠の作品の特徴。『言の葉の庭』『君の名は。』『天気の子』の共通点。
新海誠監督の作品の特徴は、その代表作の制作にも共通しているようです。
共通点①ビデオコンテ(映画製作の設計図)のすべての声を監督一人で吹き込む
新海監督は、男性はもちろん、女性、子供の声も自分一人が吹き込みます。
これにより監督の細かいイメージがアニメーター、声優に伝わり、作品がより良いものになっていきます。
共通点②発想のヒントは日本の昔話、日本の和歌
『君の名は。』は平安時代の2つの作品がモチーフとなっています。
『 とりかへばや物語 』(作者不明)と『 夢と知 りせば』(小野小町)
『とりかへばや物語 』は、男女の兄妹が男子→女子、女子→男子としてそれぞれ育てられる物語です。
『 夢と知 りせば』は、あのひとが夢に出てきたなら、もし夢とわかっていたなら目覚めなかったろうに・・・という和歌です。
ずーと昔の平安時代から現代に通じる恋愛ストーリーに発想が及ぶということは、昔も今も恋愛に関しての男女の思いは、共通ということですね。
『言の葉の庭』は、 ”雨の日に偶然出会った高校生と年上の女性の淡い恋物語” 飛鳥時代の万葉集がモチーフです。
雷神(なるかみ)の少し響(とよ)みてさし曇り 雨も降らぬか君をとどめむ (柿本人麻呂)
この歌の意味は
雷が鳴り雲が広がり雨が降ればあなたを留めておくことができるのに・・・
まさに淡い恋心を現している和歌ですね。
『天気の子』もいくつかの日本の昔話をモチーフとなっています。
『昔から語り継がれている物語は普遍性があって面白くてば学ぶことが多い』
『昔話を現代風にアップデートしているのが僕の映画だといえる』
新海誠監督の言葉より
新海ワールドの原点は、日本の昔話や和歌にあったのですね。
共通点③脚本の段階で音楽担当者に読んでもらう
『君の名は。』『天気の子』の音楽担当といえば、RADWINPS( ラッドウィンプス )です。
映像より先に楽曲ができることにより、楽曲と映像がぴったり合った作品になり、音楽(歌詞)と映像の相乗効果で作品への感動と説得力を増加させる効果があるようです。
『天気の子』でも歌詞の内容を観客に聴かせるために、映像を伸ばしたシーンもあるようです。
たしかに、新海監督の作品には、挿入歌があり、その意味を考えながら作品を見て、納得できる部分があります。
音楽には観客を物語の中にのめり込みやすくする効果があるようです。
『映画の理屈をジャンプして超えることができるのが音楽』
『RADWINPSの歌詞が、この時のキャラクターはこんな気持ちなんじゃないかを教えてくれることがある』
『じゃあこの時はもっと全力で走り出すんじゃないかとか』
『物語の展開に歌詞が影響を与えたりもします』
新海誠監督の言葉より
新海監督自身、『自分はアーチストでも美術家でもない』と仰っております。
まさに、それぞれのスペシャリストの意見を取り入れるというチームプレーを体現され、チームワークを重んじておられるようです。
共通点④観客の感情の推移をグラフ化しながら、ストーリーを構築
『君の名は。』の感情曲線抜粋
引用:世界一受けたい授業(日本テレビ系列)
この感情曲線の流れ(一部)
- 三葉と瀧すい星を見る (曲線のはじまり)
- 入れ替わり三葉の体に瀧が (感情急上昇)
- 朝の朝食妹、祖母の紹介彗星報道 (その後三葉の悩みがわかり始めて感情が落ち込んでいく)
- テシガワラとサヤカ父の選挙活動
- 国語の授業「かたわれ時」様子がおかしかったと知る
- 組紐を編む
- 勅使河原家にて父の選挙活動
- 口嚙み酒
- 神様に文句こんな人生イヤ! (感情グラフは一番下に)
- 入れ替わり瀧の体に三葉が(グラフは再び急上昇)
『感情の上下が浅いグラフだと観客は飽きてしまいます』
『深い感情の起伏をつくりながらクライマックスに向けて感情の底上げされていくグラフが好ましい』
『ダレ場って言ったりしますけど、観客が物を考える時間も必要』
新海誠監督の言葉より
新海監督は、観客の『面白くなかった』とか『退屈だった』などの厳しい意見か最も怖く恐ろしいと仰っています。
映画を見に行く動機に、口コミや感想がありますが、他の方の評判がいいと、やっぱり観に行きたくなりますもんね。
観客の感情も考えながらの作品制作は、まさに緻密にストーリーを作り上げていく新海ワールドの象徴ではないでしょうか。
新海作品を観る私たちの感情は、新海監督にコントロールされているといっても過言ではありませんね。
共通点⑤作品を作るたびに引っ越し
『作品を作るたびに引っ越しをします』
『引っ越すと気分も変わる。同じ東京を舞台にしていても少し違う風景が見えてくる』
『今年ももうすぐ引っ越す予定です』
新海誠監督の言葉より
新海監督の引っ越しは、次の作品制作へのスタートの意味合いがありそうですね。
まとめ
新海誠監督の作品は、物語(ストーリー)×音楽×映像の集大成といえると思います。
観客の感情の動きを考えながらの緻密なストーリー。
観客へ圧倒的な感動と説得力を与える音楽と映像の一体感。
まるで写真の風景のようなきめ細やかな映像。
この3つどれが欠けても新海ワールドは成り立ちません。
最新作『天気の子』の制作に携わったスタッフの数は約800人とのことです。
この人数は、まさに1つの作品にかける監督の思いを表していると思います。
この人数の各分野のプロフェッショナルがいたからこそ、世界で評価される作品を生み出せるのだと思います。
そして、新海監督はスタッフ一人ひとりに常に感謝の気持ちを伝え、チームワークを重んじています。
これからも、チームプレーで素晴らしい作品を制作していって欲しいと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。